学校でカポエイラを教えるのは、実は難しい

こんにちは、りゅうです。

実はブラジルでは2017年制定の国家共通カリキュラム基盤(BNCC)で「格闘技」領域の一部として、初等3〜5年生・前期中等6〜7年生(日本でいう小学生、中学生)で扱うべき内容と明記されています。ブラジルの学校教育の基準(日本でいう学習指導要領のようなものです)にも、体育の授業で教えるべき内容として、はっきり書かれています。

つまりカポエイラは、ブラジルの学校で「教えなければいけないもの」なのです。ところが実際には、多くの体育の先生が「教えたいけれど、うまく教えられない」という悩みを抱えているといいます。ここで面白い論文を今回紹介します。

紹介する論文は”「Construção e validação de material didático sobre o trabalho pedagógico com a capoeira na escola」SciELO Preprints、2025年”です。

上記の問題を解決するために「先生が使える教材」を作り、その教材が本当に役立つかどうかを確かめた研究です。

カポエイラの先生になるのは、とても時間がかかります

なぜ体育の先生はカポエイラを教えるのに困ってしまうのでしょうか。理由は大きく二つあります。

一つ目は、カポエイラの師匠(メストレと呼ばれます)になるまでに、とても長い時間がかかることです。カポエイラは、輪になった仲間の前で、師匠から弟子へと、体で覚えながら受け継がれてきた文化です。覚えるのは技だけではありません。ビリンバウという楽器の演奏、歌、そして「奴隷制度に抵抗するために生まれた」という歴史まで、全部まとめて理解して、やっと一人前と認められるのです。何年も、時には何十年もかけて身につけるものなので、教科書のように紙に書いて簡単に伝えられるものではないのです。

二つ目は、体育の先生自身の事情です。体育の先生は、サッカーやバレーボール、陸上、ダンスなど、いろいろなスポーツを幅広く勉強して先生になります。カポエイラだけを何年も練習してきたわけではありません。それでも学校のきまりでカポエイラを教えなければいけないので、「教えなければいけないのに、教え方がわからない」という板挟みの状態になってしまうのです。実際にこの論文では、ブラジルのある地域の体育の先生123人にアンケートを取り、どんなことに困っているかを調べています。

「教え方」を研究した論文は、実はめずらしいのです

ここで面白いのは、これだけ大事なテーマなのに、カポエイラについてのこれまでの研究の多くは「歴史」や「文化としての意味」、あるいは「法律や国の制度がどうなっているか」を調べるものが中心だという点です。この論文自身も、これまでの研究をふりかえって、「カポエイラを学校でどう教えるかについての研究はまだ少なく、それが先生たちの授業の質にも影響しているのではないか」と指摘しています。ほかの研究者による調査でも、カポエイラの新しい教え方の提案は不足していると言われているそうです。

つまり、カポエイラの歴史や文化を調べる研究はあっても、「先生が実際に授業で使える教材を作り、それがきちんと役に立つかどうかを確かめる」研究は、とても少ないのです。

現場の声と、師匠の知識をつなげる工夫

この論文は、まさにこの「二つの難しさ」をつなげようとしています。

まず、123人の先生の声をもとに、「歴史」「リズムと音楽」「技の練習」「授業への取り入れ方」「儀式や流派」という5つのテーマを決め、全部で11の授業プランを作りました。次に、そのプランが本当に良い内容かどうかを確かめるため、大学の先生だけでなく、現役のカポエイラの師匠(メストレ)を含む5人の専門家に評価してもらいました。専門家たちの意見がどれくらい一致しているかを数字で表す方法を使ったところ、100点満点で言えばおよそ93点にあたる、とても高い評価が得られました。

つまりこの教材は、体育の先生に「カポエイラの師匠になりなさい」と求めるのではなく、師匠を含む専門家の知識を、先生でも使えるようにあらかじめ「翻訳」して渡してくれるものなのです。

この論文が提唱した実際の授業プランを見てみると、この工夫がよくわかります。たとえば、カニやアザラシ、サルなど動物の動きをまねする「動物体操」は、遊びながら自然に、カポエイラらしい低い姿勢の動きを身につけられるようになっています。棒を使って輪になって行う遊びや鬼ごっこも、カポエイラの基本のステップや技を、楽しみながら覚えられるように工夫されています。専門家からの意見を受けて、授業の順番を並べかえたり、動画や写真を追加したりと、細かい調整も行われました。

もちろん、この教材だけでカポエイラ指導のすべての悩みが解決するわけではありません。論文を書いた人たち自身も、「これは一つの助けになる道具にすぎない」とし、これからもっとたくさんの研究が必要だと述べています。けれども、この控えめな結び方こそが、この研究の大切さを物語っているように思います。師匠になるまでの道のりは長く、体育の先生の勉強は幅広くて浅い——その両方の難しさのあいだを埋めようとする作業は、地道で時間のかかることだからこそ、取り組む人が少ないのでしょう。何十年もかけて受け継がれてきた文化を、限られた授業時間の中で、専門家ではない先生でも、心をこめて伝えられるようにすること。現場の声と師匠の知識を組み合わせてこの難しい課題に挑んだという点で、この論文は「数が少ない」という以上の価値を持つ研究だと言えるでしょう。

そしてこうした取り組みや研究は、カポエイラジェライス東京の代表として、日本に、そして世界にもっとカポエイラを広めたいという私の目標(おそらく他のほとんどのカポエイラの先生の目標も同じだと思います)、その目標に進むためのヒントにもなると思います。私も兼ねてから、カポエイラの世界で指導者が育つまでの年月の長さや、一般教員がカポエイラを簡単にでも教えようとすると直面する「文化の奥の深さ」という課題を思慮していました。

この研究をはじめとし、さまざまな方法の研究や取り組みが進むことを期待します。

※参考にした論文:Brito, D. M.ほか「Construção e validação de material didático sobre o trabalho pedagógico com a capoeira na escola」SciELO Preprints、2025年(査読前論文)

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